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デジタル・トランスフォメーションの力で、学びつづける人材を育む、ディズニーの挑戦
2018年、ウォルト・ディズニー・カンパニーは、大規模な組織再編を経て、新たな事業セグメントである「Direct-to-Consumer & International」を立ち上げた。この新規事業は、Disney+、Hulu、ESPN+など、グローバルに展開するディズニーのストリーミングコンテンツやメディアサービスで構成された。もちろん、この変革自体は一夜にして達成したわけではなく、ディズニー・インタラクティブ・ラボという社内のイノベーションチームが6年間試行錯誤をした結果であった。そして、その約6年間、私はデザイン部門の責任者を務め、多くのプロジェクトや試みを主導したり、参加する機会を得られた。
私は現在IDEOという、デザインを通じてポジティブなインパクトを生み出すグローバルデザインファームで働いている。ここでは、組織変革に必要な「学び」をプログラムという形で提供している。最近改めてこのディズニーでの経験を振り返ってみると、以前とは異なる視点で気づきが得られたので、シェアしたい。ここでは、リーダーが変化を乗り越える際に役立つ5つのポイントを紹介する。
1. 大きな変革は、小さな実験からはじまる
何かを変えようとする時、ついつい身構えてしまい、最初の一歩が踏み出せないことが多い。ただ実は、変化への最初の一歩は意外に身構えない方がうまくいくものだ。例えば、ディズニーでは、組織全体を大きく変えるのに6年かかったが、新しい仕事のやり方で最初の製品を作り、発売するのに要したのはわずか6カ月だった。
小さな実験から始めることで、失敗した場合のリスクを減らし、達成したいことが本当に価値のあることなのかを検証することができる。ラボでも、パーパスに沿い、変化を体現するようなプロダクトであり、同時に企業の北極星となるようなものを最初に開発し、それを真っ先にリリースしていくことでゲストからフィードバックをもらっていった。すなわち、目標を照らす「ビーコン(灯台)」のようなプロジェクトだ。そして、それらのフィードバックをもとに繰り返し実験を行い、得られる学びをベースに、求められるアプローチ、必要なチーム、をスケールしていった。
「山を動かす者は、小さな石を運び出すことから始める。」 — 孔子
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2. 組織を動かすためには、力強いリーダーシップと、チームが取り組むための最適なスタートを設定することが求められる。
「変革はトップダウンで行うものか、ボトムアップで行うものか」という質問をよく耳にするが、実際、変革のためには両方が必要になる。例えば、ディズニーでは、台頭してきたニーズに応えるという明確なビジョンをリーダーシップが掲げることから変革はスタートした。また、このリーダーは、ソリューションを示唆するのではなく、良い問いをチームに投げかけることで、課題の本質を捉え直し、デザインの力で解決しようと試みていた。
ラボのメンバーは、転職者と社内公募で選ばれた社員の混成であり、またそれぞれが異なる専門性を持つ多様なメンバーで構成されていた。この融合が非常に大切であった。転職者たちは新鮮な視点のみならず、新たな専門知識、アプローチやアイデアを持ち込み、既存社員たちは、組織内の事情に詳しいため、その活かし方を考えてくれた。また、同時にブランドへの忠誠心をチームに浸透させてくれた。
変化を成功させるには、トップダウンとボトムアップの両方からのアプローチが必要となる。リーダーは、未来を見据えた大胆なビジョンを掲げ、そのビジョンを実行するためにチームに権限を与えることをいとわない。同時に、リーダーから刺激を受けた個々人は、現状に甘んじることなく挑戦し、可能性を広げ続けることが望まれる。あなたはリーダーとして、チームにどのようなビジョンを掲げたいだろうか?あなたがチームに投げかけるべき問いは何だろうか?そしてそれは、新しい考え方を切り開くような、刺激を誘発できるだろうか?
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3. 変革の過程で、新しい役割や評価基準、マインドセットを模索し取り込むこと
リーダーやチームは、日々の業務の効率化や最適化を実施しながら、常に新しい領域にも目を向けるべきだ。短期の利益追求型だけでなく、長期視点に立って、組織内で創造性が生かせるために必要なマインドセットを育んだり、その進捗を把握するための尺度の導入が求められる。リーダーは、既存の従業員が新たな役割や能力を身につけるためのアップスキリングやリスキリングに投資すべきだ。また、足りないスキルについては、積極的に採用する必要も出てくる。それらに加えて、単にスキルを習得することだけでなく、チーム一丸となって試しながら学ぶことを恐れない姿勢や、ステークホルダーを巻き込む共感性なども文化に取り入れていく必要がある。
例えば、ラボでは、新しいデジタル製品、サービス、プラットフォームを開発するために、デザインリサーチャー、UXデザイナー、ソフトウェアエンジニア、データサイエンティスト、プロダクトマネージャーを必要に応じて育成したり、新規に採用した。また、新しいプロダクトは、これまでのプロダクトとは大きくその性質が異なるため、従来とは異なる指標を導入して、長期的な進捗状況を把握できるようにした。
持続可能な組織を構築するには、もはや効率性の最適化のみならず、新たな価値を創造するためのに必要な要素や環境を実験し続ける姿勢が求められる。基本的なビジネスやオペレーションのパフォーマンスだけでなく、ビジネスの健全性、レジリエンス、そして未開発の可能性について考えるために、他にどのような指標を導入することができるだろうか?
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4. プロジェクトが成功するか、失敗するかは、リーダーの選択にかかっている
2016年、ディズニーは、苦境に立たされていたインタラクティブ・メディア事業部の一部であるゲーム部門を無くすという、難しい決断を下した。その代わりに、ディズニーはライセンスモデルにシフトし、世界中のトップスタジオと提携し、彼らにゲーム開発を委託することした。もちろん、これ自体は非常に難しい決断であり、社内からも反発があった。しかし、結果的にディズニーは、大規模な専門チームを自社で運営するリスクを負うことなく、世界中の優れた才能を持つ外部の人々により、大ヒットゲームを世に届けることができた。この際に、ディズニーは、ゲーム開発自体にリソースを割くのではなく、開発は外部に委託し、自らは膨大な知的財産権を生かすことに戦略をシフトさせた。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズなどのキャラクター、世界観、ストーリーなどの膨大な知的財産をライセンス供与する一方で、空いたリソースを使い、D2Cプラットフォームの開発や、より魅力的なゲスト体験の構築に集中させることに意味があると考えたのだ。
組織の変革には、新しいチーム作りや外部パートナーシップが鍵になる。どのような機能を社内に残し、何をアウトソースするのか?これらを考える上で、リーダーとして求められるのは、長期的な視野に立ちながら、関わってくるステークホルダーそれぞれの意味性を明確にしていくことだ。
ケーススタディ:(英語のみ)北米の食品会社J.M.Smucker Companyがどのようにして顧客志向を取り入れてイノベーションの文化を育んだのか。
5. 変革は想定以上に時間がかかる
ソフトウェア開発のように、組織変革に終わりはない。組織変革は、実験と反復から成る継続的な進化であり、21世紀に成功するためには、すべての企業が学習する組織であることが望まれる。
小さな試みから始めて、より共感や好奇心、創造性を重視した企業文化に進化させ、失敗から学ぶことを受け入れることで、最終的にはポジティブな進歩を遂げることができる。やがて、あなたの組織は会社の中心的なチームとなり、ビジネスユニットを超えて協力し合い、従業員、顧客、地域社会、株主、そして私たちが共有する地球など、すべてのステークホルダーの進化するニーズを満たすために常に適応していくようになるだろう。
ケーススタディ:どのようにしてFordがデザインを通じて、自動車会社の新しい未来を作り上げようとしているのか。
IDEOには変革を望むリーダーであったり、新しい試みを試そうとしている一部門や、台頭してきたニーズに対応したいチームなどからの問い合わせが多く寄せられる。彼らは組織変革の入り口にいることが多い。
このような場合、IDEOのデザイン・リサーチのアプローチを通じて、潜在的なニーズなどを発見し、新しい考え方を生み出すための洞察を得ることができる。また、センスメイキングとプロトタイピングにより、新しい機会領域を特定し、探索し、実験することを進めていくことも可能だ。IDEOでは変革を求めるクライアントに、コラボレーションと能力開発を通じて、生涯学習の文化を育むための新しい習慣、スキルセット、考え方の開発を支援している。そして、共感性、好奇心、創造性をもって、この予測が難しい世の中をナビゲートし、持続可能な未来に向けた変化を生み出すことをサポートしていく。
「ディズニーランドは永遠に完成しない。 世界に想像力がある限り、成長し続けるだろう」 — ウォルト・ディズニー
ウォルト・ディズニーは、創造性の本質を理解し、チームを率いて、新たな価値を生み出すメンバーを支えてた。彼は、大胆で先見性のあるリーダーであり、仕事内容や期待をはるかに超えた成果を達成するために、人々に力を与えることに長けていた。ディズニーランドを建設したデザイナー、アーティスト、エンジニアは、遊園地やジェットコースターの専門家では決してなかった。しかし、そのような状況でもウォルトは、ディズニーランドの未来像を描き、アニメーション映画を作ることから、本質を捉え記憶に残る、素晴らしいディズニー体験を作ることへと人々を導いていった。
ウォルトはチームを信じ、チームに自分を信じさせることで、世界中のゲストやファンに愛される、地球上で他に類を見ないブランドを作り上げたと言える。