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デザインの力で変わったFordと、そこから見えてきた自動車会社の在り方

それはある暖かい春の日だった。100年以上の歴史を持つFordの本社があるミシガン州のディアボーンに通い続けて15年経った頃だ。その日も彼らのシニアリーダーシップと会うために我々はやってきた。

ただその日は、まるでバスケットボールコートのような部屋に我々はいた。だだっ広いその空間は、さまざまな標識や旗が掲げてあり、Purchasing Boulevard(パーチェシング大通り)、 Operations Corrido(オペレーション回廊), そして Design Central(デザインセントラル)など、チームごとの作業場がわかるようになっていた。壁面には、デザインリサーチの結果から導かれたカスタマーストーリー、インサイト、フレームワークなどが張り巡らされていた。そしてその空間の中央には、販売チーム、人事、法務、デザイン、経理など多くの部門からのクロスファンクションチームが、スタートアップのようなスタイルで開発した自動車のプロトタイプが展示されていた。このチームにとって、このようなローフィデリティ(粗い粒度・低い忠実性)プロトタイプに取り組んでいくこと自体が新しい試みであり、そもそも他部署のメンバーとコラボレーションしながら、アイデアを形にして実験していくことも未体験なことだった。ただ、この中央に位置するプロトタイプを見る限り、これに取り組んだ価値があることはすぐに見てとれた。

実はこの部屋はFordのディアボーンのキャンパス内にいくつも存在し、その他の拠点にもあるWar Room (作戦指令室)の一つである。もちろんこのようなラピッド・プロトタイピングを用いたアプローチでの自動車開発はFordにとって全く新しいものであった。しかしながら、ここに置いてあるプロトタイプを作り出したのは、間違いなくFordのメンバー達であった。これまでにIDEOは常に彼らと複数のプロジェクトをともにしてきたが、このプロトタイプについては全てFordのメンバーの手によるものであった。
自動車開発には膨大な時間と労力がかかるものだ。今回、Fordがラピッド・プロトタイピングのアプローチをとったことで、従来と比べて大幅の時間短縮となり、結果的にリリースするためにかかるコストと時間を減らすことに繋がった。この部屋の中央にあるプロトタイプは、まさにFordのDNAの中にデザイン思考が刻み込まれた証明でもあった。

長年続いてきたIDEOとFordのコラボレーションの多くは、具体的なゴールをもったプロジェクトや取り組みが中心であった。その都度IDEOはFordのデザイナーと密なコラボレーションを繰り返していった。IDEOの初期の頃の役割は「海賊船団」のようでもあり、とにかく素早く行動し、既存のルールを破壊し回ると言うものであった。この手法でもアウトプットは出るのだが、組織全体にこのアプローチがスケールしていくために苦労していた。

組織全体に変化が見え始めたのは、これらの複数のプロジェクトを体感したFord社員の総数が増えた頃だった。彼らの多くがヒューマンセンタードデザインの力を目の当たりにして、それを信じるようになり、自ら実践するようになった。その結果として、IDEOとFordのパートナーシップの象徴でもある、先ほどのプロトタイプが生まれた。この長年のパートナーシップを通じて、我々はFordを新しい組織へと変化させ、自動車業界のみならずモビリティ業界をリーディングできるような存在へと押し上げたのだ。

そしてこの長年のエンゲージメントを振り返ってみると、こういった関係性自体が戦略的なものであったことを再認識させられた。多くの社員が関わったことで、結果的にデザイン思考を体感した総数が増え、そのメンバーたちが自ら新しい働き方を模索し始めたのだ。彼らはデザインのアプローチを取り入れることで、複雑な課題や、組織とシステム全体の課題など難しい問題にも積極的に取り組める姿勢を手に入れた。大企業を変革させていくために必要なのは、新たなプロセスを導入することではない。変化に必要な、組織としてのレジリエンスを高め、新しい考え方を受け入れられるための土壌づくりの方が必要になる。このためにも、我々は常にタフな質問を投げかけ続ける必要がある。本当にお客様が求めている、使いたいプロダクトやサービスとは?それを届け、満たすためにFordは何を変えていかなければならないのか?

この変化を押し進めたのが2017年からCEOに就任したJim Hackett氏だ。前職ではグローバルに展開するオフィスファーニチャー会社であるSteelcaseにて、デザインを用いて新しい価値を生み出してきた張本人である。Hackett氏はそのSteelcase時代にIDEOと初めて仕事をする機会があり、IDEOとのコラボレーションを通じ、ヒューマンセンタードデザインを用いて、オフィス家具から、新しい職場と働き方の提案をする会社へとSteelcaseを変革させていった。そしてFordに来た際にも、そのヒューマンセンタードデザインのアプローチを持ち込んだ。

ビジネスの一番の目的は、顧客のニーズを満たすことであると言っても過言ではない。多くの歴史を持つ企業は、この目的に沿った独自のビジネスモデルを持っており、そこから収益を得る術を心得ている。同時にそれらのビジネスモデルの多くは、効率と効果に特化している。そして、このようなマインドセットのままでいると、顧客を見失いがちになることもある。よって、歴史のある大企業を変えていくためには、まずこのビジネスの捉え方、オペレーションの仕方から変えていくことが大切になる。

Hackett氏は在職中、まずデザインの概念がイノベーションチームのみならず、イノベーションチームから190,000人の組織全体に伝わるようなエコシステムを構築することに注力した。変化を作り出すということは多くの人々に従来とは異なる判断をすることを説得していくことでもある。そのためにも現在のやり方や普段の行動・行為に執着せずに新しいことに視野を広げる必要がある。まずは新しいアイデアを生み出す上での、新しやり方に取り組んでもらい、全体のアライメントを取ることで、必ずしも自社のDNAにはないことをやることに自信をつけてもらう必要があった。

この動きを拡散させていくためにFordがとった大きな2つの試作があった。一つはD-Fordである。D-Fordはプロダクトに注力するのではなく、人に注力する新しいグローバルチームだ。二つ目は企業全体で学べるラーニング用のプラットフォームの構築だ。IDEOとのコラボレーションを通じて開発されたデザインツールへのアクセスや、必要なスキルセットを学ぶことができる。この二つの仕組みの導入と、オペレーションの徹底により、デザイン思考が中から組織全体に育っていった。

この新しい働き方やアプローチを最も反映した車種モデルが、EV(電気自動車)のSUVである Mustang Mach-Eだ。ロスアンゼルスで先月発表されたばかりのモデルだ(2019年11月頃)。このMustang Mach-Eの開発は、プロダクト発想ではなくヒューマンセンタードデザインに基づき人々のニーズや欲求に応える形で作られた車種である。そして、ヘンリーフォードがデトロイトに建てた初めての工場から、数ブロック離れた近所で開発されたものでもあった。

開発を担当したTeam Edisonは、デザイン担当、充電周り担当、インフォテインメント担当、マーケティング担当者など多様な専門性をもった人々によって構成された。ヒューマンセンタードデザインの組織全体への浸透が進んだことにより、Team Edisonは従来のやり方に縛られずに、クリエイティビティを遺憾無く発揮することができた。世界中の人々が求めること、そしてその価値観はまさに今変化し続けている。Mustang Mach-Eは人々の声に耳を傾けることで、その価値観の変化を捉えた車種になっている。

このような新しいマインドセットは、開発チームの中ではどんどん広がっていったが、ヒューマンセンタードデザインの可能性について、デザインに全く関心のない部門に対しても浸透させていくのにはひと工夫が必要だった。実際にヒューマンセンターデザインの概念やアプローチは、様々な部門やレイヤーでの活用が可能だ。ただ、活用していくためには、それぞれの環境や状況といったコンテクストに合わせていくことが必要だった。そこでFordではデザイン思考をフェーズ別に学べる社内用のラーニングプラットフォームを開発した。これにより、ディアボーンでタクシー運転手の夜間移動のパターン分析をしているチームも、中国の南京市でチャイルドシートを組み立てているチームも、ロンドンの営業担当も誰もがデザイン思考を用いて、人を中心に仕事を考えることをミッションとして掲げ、実践できるようになった。

ラーニング用のプラットフォームと専用ツールは、Fordでデザインを学びたい全員に対して提供されている。例えば、開発にデザイン思考を活かしたい人は、メソッドカードを使ったり、Fordで今までどのようにデザイン思考が活用されていたのかをまとめたビデオを観たりすることができる。

Fordは、全社員がヒューマンセンタードデザインの視点を持つことが有益であると信じている。そしてデザイン主導のクリエイティブな文化を構築することを企業全体で取り組んでいる。
デザインを学んでから気づく点の一つが、それを適用できる範囲の広さだと思う。それが、自動運転を用いたライドシェアを考える際でも、サステイナブルな移動のためのエコシステムを考える際でも役に立ってくる。ヒューマンセンタードデザインを学び取り入れるということは、日常生活でもモノの見方が変わってくることでもある。

昔、デザイナーとして教わったのは、「あの棚に並んでいる商品。あれをデザインしたのは私です」と言えることだった。時代は変わり、棚に並ぶモノ自体をデザインすることよりも、世の中へのインパクトと、人々への影響をデザインすることの方が重要視されている。そして我々も世に良い変化をもたらすためのやり方や、インパクトの効果検証ができるようになってきている。

変化を作り出すのは難しい。まずは現状のやり方に対して疑問を持ってもらうことからはじめ、実際に多様な専門性をもったメンバーと、コラボレーションを通じて何かを生み出す体験をしてもらうことが大切になる。その過程から、周りからの視点を自ら取り入れることに慣れてくると、次第に自分自身の仕事の進め方、価値観も変わっていくことに気づくだろう。すると周りもそれに徐々についてくる。大きな組織における変革はこのような小さなことからスタートする。Fordの場合は、このように全く異なるアプローチを取り入れ続けたことで、未来のために変革するためのきっかけを得たと言える。

Illustrations by Johan Papin

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  • Iain Roberts

    Partner and Chief Operating Officer
    As COO of IDEO, Iain helps the company navigate organizational complexity and works to give designers the creative agency to make a positive impact in the world. He applies this mindset to IDEO’s increasingly divergent business models, including multiple consulting arms across the globe and a number of new product and service engagement models.

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