Pigeon Testimonials

”プロジェクトの最大の成果は、消費者の”心の扉”を開ける楽しさを感じたことでしょう。” ー ピジョン株式会社 代表取締役社長 山下 茂氏

ゼロ→イチを生み出せるようになりたかった


Q. プロジェクト開始当初、どんなチャレンジをお持ちだったのでしょうか。

三嶌氏: 企画に携わる部門として、ゼロからイチを生み出せるようになりたいと思っていました。アイデアはいろいろ出すものの、なかなか新しい商品には繋がらず、開発部門全体が悩んでいる状況でした。

大杉氏:弊社では、商品開発は定量調査がもっとも重要、という考え方が定着していたのですが、3年前に立ち上がったある商品のリニューアル企画も難航しており、もうこれはやり方を変えないとうまくいかないのではないか、と思っていたところに、IDEOとのプロジェクトの話が生まれました。

最初の課題が、リサーチを経て変化していった


Q. 初めは、特定の領域に絞ってプロジェクトを立ち上げる予定でしたよね。

三嶌氏:離乳に関する新しい商品・サービスを考えることが元々の課題でした。しかし、IDEOとリサーチを重ねるなかで、この特定のカテゴリだけでなく、育児全体にどんどん視点が広がっていったんです。最終的には、「ピジョンが、パパママの”育児のコラボレーター”として、どんな体験が提供できるか?」という課題に変化していました。

リサーチでは、日本国内はもちろん、海外はサンフランシスコまで、様々な家庭を訪ねました。そこで、IDEOの観察の範囲や、アプローチの違いに驚きました。これまで弊社のリサーチでは、例えば新商品の企画の際、「このコンセプトどう思いますか?」とユーザーに文面だけを見せて感想を聞いたりしていましたが、IDEOの皆さんは、「人の価値観」をずっと見ているように感じました。

加藤氏:たとえばサンフランシスコで訪問したあるファミリーからは、「食を通じてこんな風に育てたい」といった育児論から、人生論まで、引き出すことができました。一緒に様々な赤ちゃんの生活の一部を感じることで、離乳という「食」のカテゴリだけではない、すべてが見えてきたのです。

大杉氏:実は「食」は生活の基本動作なので、このように広がったのは必然だったのかもしれません。今までは、ものを作るために、一つ一つのカテゴリを区切って見ていましたが、リサーチを通じて、「食」「しつけ」「生活」など、すべてが繋がっていたことに気づき、それが社内の共通認識になりました。

Q. 皆さん自身が創りたいもの、お客様が求めているものを突き詰めていった結果、新しいプロダクトということにとどまらない、より広い領域のアイデアに至りました。

神保氏: 私たちはこれまで、「哺乳器のピジョン」といったように自らをプロダクトで定義していましたが、今回いろんなユーザーと話をしてみて、意外にもみんな「ピジョン=赤ちゃん」というくらい、イメージが広いということがわかりました。”育児のコラボレーター”として、赤ちゃん、ママパパにとって良い世界をつくることをテーマにすれば、既存のプロダクトだけに縛られることなく、今までにない新しい価値を提供していけると思いました。

加藤氏: 育児をしている人を知り尽くす、というように視点を変えれば、いくらでも領域は広げられるし、自社に製造ノウハウがなければ、これまでもそうしてきたように、どこかとコラボレーションすればいい、というように考えられるようになったと思います。

曖昧なままでも、一旦動き出していい


Q. IDEOと協働するなかで、苦労した点やチャレンジはありましたか?

加藤氏:従来の弊社のやり方では、各プロセスで曖昧な点を残してはいけない、何でもロジカルに説明しなければいけない、と思っていたので、結論が見えない状況に不安を感じていました。しかし、リサーチなどの過程で白黒をつけてしまっていたら、ユニークなアイデアは生まれていなかったと思います。一旦曖昧なままでも動き出せるということを体感し、スピード感もかなり上がりました。

神保氏:早く白黒つけようとすると、今見えてること、今できること、技術的な可能性のなかに縛られてしまうんだと気づきました。

Q. プロジェクトの過程で、皆さんご自身に何か変化はありましたか?

三嶌氏:今まで、従来の枠にとらわれていたなと感じました。リサーチにおいても、弊社の従来のやり方だと、商品に応じて対象を絞ってユーザーを観察します。たとえば排泄のカテゴリで「おしりふき」がテーマだったら、ユーザーは指何本でどう拭くか?といった細かい行動観察になります。ドラッグストア内の競合ばかりを見ていて、広げたとしても衛生用品に止まっていました。

加藤氏:私たちは、競合、市場の課題解決など、決まった枠のなかで行う既存の開発プロセスに慣れていて、外に何があるかを忘れがちです。
私も今回、「ビジネスに私的感情を入れて考えてもいい」と知ったのは驚きでした。

インサイトを「統合して深化させる」プロセスを自社で再現

Q. デザイン思考のプロセスで、リサーチの後に行う「シンセシス」を、IDEOとのセッションで行った後、皆さんで再度やり直したと伺いました。

三嶌氏:リサーチで得たものをメンバーで共有し、深める「シンセシス」は、プロセスの中で一番大事だと感じていた一方、IDEO中心で行ったので消化不足なところもありました。そこで、時間はかかっても何か得るものはあるだろうと考え、自分たちでやり直すことにしたんです。

大杉氏:シンセシスは、みんなでやることに意義があるんだと思います。一人一人の想いや気づき、すれ違っているところを重ね合いながら、インサイトを統合し、深化させる、そんな作業だと理解しました。

三嶌氏:やりながら、自分たちの価値観もよくわかりました。メンバーによって、あるインサイトを悲観的に捉える人もいれば、ポジティブに捉える人もいて、それをぶつけ合いながら一つのことを複眼でみるのがいいんだなと。

別のプロジェクトの拡大メンバーと一緒に、別のテーマでシンセシスをやってみたりもしました。皆、体験するまでは「なにその横文字?」という感じなのですが、実際やってもらうと、「あーなるほど!」となるんですよね。


Q. ご自身に関する気付きや、今後の仕事に対する想いをお聞かせください。

三嶌氏:今回、自分自身にも、育児にも、会社のことにも向き合いました。そして、自分が世の中にどんなインパクトを与えられるのか?と考えるようになったのが一番大きな変化でした。これからも、この気持ちを大事にしていきたいと思っています。

神保氏:既存のやり方、考え方、商品をも変えていけるんだ、という気づきが大きかったです。今回アイデアが生まれるプロセスで学んだ方法やマインドセットを、これからどんどん社内で活用し、広めていきたいです。

加藤氏:組織をもっと柔軟に、個人個人が商品開発を楽しめるような状態にするために尽力したいですね。みんなが目をキラキラさせながら仕事ができるよう、社内の橋渡しをできたらと思っています。

山下 茂 代表取締役社長のコメント

 今回IDEOさんにお願いしたのは、開発部門の社員がこれからもっと新しい価値を世に出していくため、定型化されていた通常の開発プロセスを忘れて、IDEOさんとの協働から何かを学び取ってほしいと思ったからです。プロジェクトの最大の成果は、コアメンバーたちとその周りで協力したメンバーが、消費者の「心の扉」を開ける楽しさを感じたことでしょう。

 私も何度かセッションに参加しましたが、特に印象に残っているのは、IDEOの「Embrace Ambiguity」(曖昧さを許容する)という考え方に触れたことです。我々の開発プロセスでは、できるだけ早く結論を出そう、仮説を早く立てて、それに向けて商品開発を進めよう、と考えがちです。IDEOの考え方では、結論を急がず、いろんな角度から観察して、消費者を深く理解し、共感することを大切にしています。アイデアの否定や批判をせず、いったんありのまますべてを受け入れるんですね。そこから生まれたアイデア、消費者がまだ気づいていない価値を伝えるストーリーテリングがとても面白いと感じました。

 今後ますます急速に技術革新が進む世界で、新しい価値を生み出し続ける会社であるために、良い失敗、意味のある失敗を促していきたいと思っています。先日も部下に伝えたんです、『失敗してもいいからどんどん新しいことに挑戦しなさい。失敗してもそれが学びになるし、その失敗の責任は私がとる。』と。


ご協力:

ピジョン株式会社
代表取締役社長 山下 茂氏
開発本部 大杉 佳美氏、加藤 敬子氏、神保 希望氏、三嶌 裕志氏

Feb 2018

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