Big QuestionsOur work related to complex challenges.

The Challenge

どうしたら、イケアの都市部出店という新しい戦略の青写真となる、都市部での生活ニーズに合った店舗体験をデザインできるか

The OUTCOME

イケアの都市型店舗が目指すべき姿を明確にしたビジョンを策定。郊外型店舗との差別化ポイントも特定し、それらに基づいた都市型店舗ならではの新しいサービスや体験をデザインした。

2020年6月、イケアにとって日本初となる都市型店舗「IKEA原宿」がオープンしました。2つのフロアから成る店内は、「整える」、「眠る」、「料理する」、「くつろぐ」という4つの日常生活の場面を中心に、都会での暮らしをより快適にするためのアイデアやホームファニッシング商品をとり揃え、また、スウェーデンコンビニやスウェーデンカフェも併設するなど、都会人のライフスタイルとニーズを反映した心地よい空間となっています。

原宿駅前にオープンしたIKEA原宿

郊外から都心へ。イケアでは数年前よりグローバル戦略の一環として、変わりつつある生活者のニーズに応えるべく、都市型の店舗を展開しています。都心に住むミレニアル世代や一人暮らし世帯に寄り添うことを目指したストア。東京でも、2020年の第一号店オープンに向けて、どのような店づくりをすべきか、イケアとIDEOの協業が始まりました。

イケアメンバーとの協業の様子


イケアといえば、一般的に郊外にある広大な面積の倉庫型店舗で知られています。お客様に「来ていただく」前提のこの郊外型ビジネスモデルですが、昨今では都市部への回帰が進んだり、車を所有しない世帯が増えてきていることを鑑み、イケアは自らが都心に住むお客様の「元に行く」方向に舵を切り始めました。

都心に住む人のライフスタイル、住環境およびホームファニッシングに対する考え方。これらを理解することは、イケアの都市型店舗の店づくりをしていく上で、核および指針となってくる部分です。IDEOのチームは、DIYや整頓を得意とする者、進学のため都内に引っ越してきた大学生、引っ越しを趣味とする人、マイホーム購入者、ミニマリストや家具のサブスクサービス利用者など、エクストリーム・ユーザーとのインタビューを通して都会生活者のインサイトを発掘していきました。

デザインリサーチ時の様子

そこから見えてきたのは、人々は住環境をより快適にしたい思いはあるものの、多くの人が東京での暮らしは「仮住まい」であると認識しているということ。それは、「将来的に」家族を持った時、もっと広い家に移り住んだ時、お金と時間の余裕ができた時でいいと考えていることが、まずわかってきました。

また、2年の賃貸契約が一般的で引っ越す機会の多い東京では、引っ越し時の家具の廃棄が大きな問題であることも浮かび上がってきました。「新しく家具を購入する時の条件は3つ。まず機能。次に値段。最後に捨てやすいかどうか」とは、インタビュイーの声です。家具のライフサイクルに関わるこの課題に対して、イケアではどのようにして都会に住む人のニーズに答えるサービスを提供できるか。都市型店舗がサステナビリティについて考える上で、一つ方向性も見えてきました。

初期アイデアについてお客さまからフィードバックを受けている様子

リサーチで得たインサイトを元に、IDEOのチームは「東京リズム」という、イケアの都市型店舗が目指すべき姿を明確にしたビジョンを打ち出しました。

毎朝コンビニで買うおにぎり。毎月二十日に振り込まれるお給料。または、毎年4月の人事異動。東京での生活は様々なルーティンや行事に彩られていて、そこに住む人にとって独特のリズムを生み出しています。イケアの都市型店舗は、そんな都会で生活する人のリズムに決して遅れを取らず、寄り添うものでなければならない、そして自らも「生きている」ようにその街に住む人たちに合わせて「変わりゆく」ストアとしてありたい ーこれが「東京リズム」のビジョンに込められた想いです。

IDEOのチームは、コンセプトビデオの制作を通して、東京での、目まぐるしいけれどワクワクするような生活を、そして、イケアの都市型店舗が持つ可能性の広がりを、音とイメージでも表現しました。

イケアの都市型店舗が持つ可能性の広がりを、音とイメージで表現したコンセプトビデオ

そして、イケアの都市型店舗の機会領域をまとめたプレイブックも作成。郊外型店舗との差別化ポイントを中心に、都会型店舗の指針となるコンセプトを、具体的なお客さまとのエンゲージメントやサービスを通して提案しました。

例えば、郊外型店舗ではお客さまはある程度決まったルートを辿って店内を進んでいきますが、都市型店舗では公園のように、”From Path to Park(道筋から公園のように)”というデザイン指針に基づき、皆が好きなところに行って楽しめるような空間づくりとなっています。また、DIYが売りの一つとなっている郊外型店舗ですが、都市型店舗では、”DIT(Do it Together)”をベースに、様々な人と出会えるきっかけを作ったり、一緒に作れる機会を提供してます。ディスプレイされたホームファニシング商品を、ゆっくりと吟味して直接購入できるのが郊外店舗ならば、都市型店舗では、”From Exhibit to Experience(展示から体感へ)”に基づき、生活を快適にするモノ以外にも、アイデア、インスピレーション、人とのつながりや体験という部分に重点を置いたサービスを提案しています。

さらに、”Living Room(リビングルーム)”から、”Living” Room(生きている部屋)へというコンセプトも提示しました。キッチンは食、リビングはくつろぎと、部屋ごとに機能が明確に分かれている前提のホームファニシングではなく、ワンルームでも一日のうちに表情(機能)を変えられる前提で家具やサービスをデザインすべきである、という点です。IDEOのチームはそこに潜むニーズに応えるためのアイデアやサービスも提案しました。

店舗体験の考え方、そこでの空間や顧客対応のやり方などをまとめた「プレイブック」

店舗の体験デザイン、空間設計にも注目し、建築のキット・オブ・パーツ(kit of parts)の概念を応用し、その店舗の地域特性や制限に合わせて自由自在に体験をパーツとして組み合わせができる(例えば、家具を見る、サポートを受ける、買う、フードを楽しむなど)ガイドをデザインして、原宿ストア以外でも体験デザインができるようにしました。

イケア・ジャパン株式会社 カントリーデジタルマネージャー 野崎智子様のコメント:

「IDEOがもたらしたのは、文字通り「枠にとらわれない」発想と、頭の中でしか想像できなかったことを体現させてくれたことだと思います。私たちの脳は、ひとつの方法(あるフォーマット、あるビジネスモデル、あるデザイン、あるプロセスなど)で考えるように凝り固まっていましたが、その固定概念から開放されることができたと感じます。私は若い女性たちを対象にしたリサーチに同席し、彼女たちが何を重視しているのかを理解することができました。彼女たちにとって便利であること(例:デジタル技術を使って自動化されたショッピング体験など)はそれほど重要ではなく、むしろ、便利さよりも、その場でしか得られない体験が重要だという声を何度も聞いた覚えがあります。リアルな場だからこそ得られる人と人とのつながりに価値を見出しているようでした。この学びは、現在私たちが取り組んでいるオムニチャネル戦略にも影響していると思います。」

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