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気候変動に取り組むための企業戦略を考える5つのポイント
私たちのアクションによって、気候変動を逆転させるような時間はもう残り少なくなってきています。気候変動時代に対応するために、私たちはどのようなビジネスを展開すればよいのでしょうか。
これは大きな問いですが、今この瞬間にふさわしい大きさとも言えます。これまでのデジタル時代や産業時代と同様に、気候変動時代は産業や企業をシフトさせるでしょう。また、私たちの日常生活、つまり仕事、生活、人間関係も大きく変わるでしょう。
この時代において、私たちには自然界から学ぶことが求められています。自然界では、使った資源は分解され、栄養として再生され、ゴミは出ません。これを最も理想的な未来モデルとして掲げる「Regenetative(再生的)」な思考が必要なのです。過去250年にわたる社会的・環境的破壊を修復するためには、全時代から学んだことを総動員して、エネルギー、交通、金融、農業、小売、旅行、ファッション、建設、そしてサステナビリティそのものをデザインし直す必要があります。
私たちは、これこそが人類が直面する最大のデザイン・チャレンジ(課題)だと考えています。そして、それはもう待ったなしの状態です。
この差し迫った状況を念頭に、私たちはヨーロッパの拠点で、さまざまな分野の経営者やサステナビリティのリーダーを招き、企業がサステナビリティをどのように考えているかについて話し合うための、一連のイベントを開催しました。
脱炭素社会の実現に向けた取り組みはもちろんのこと、新しい時代に組織が順応するためには、大胆なイノベーションを起こしていかなければならない点に注目しました。その結果、見えてきた5つのポイントをご紹介します。
今こそ、サステナビリティの最高責任者をイノベーションの最高責任者にすることを考える時ではないでしょうか。あるいは、その逆もしかりです。これからのすべてのイノベーションは、気候変動時代に適したものでなければなりません。
1. 製品設計段階からサステナビリティを考慮する
私たちがリーダーたちから聞いたのは、企業のサステナビリティへの取り組みをめぐる考え方が、「なぜこれに取り組まなければならないのか?」から「どうすればこれに取り組めるのか?」へと変化しているということです。
これは良い傾向です。なぜなら、サステナビリティに関連するプロダクト課題の80%はデザインの段階にまでさかのぼるからです。今も我々の意識とエネルギー、そして投資の大半は、ダウンストリーム、つまり、製品使用後の捨てられたモノの後始末に費やされてしまっています。そのため、企業にとってはいまだにサステナビリティがコストとして見えてしまい、企業を成長させるドライバーと見なすことができないのです。
フォードやその他多くの企業との取り組みから分かったことは、持続可能なデザインの選択は企業の成長と共存できる、ということです。アメリカで最も売れている車、F-150の電気自動車を開発することは、何よりもまず、より良いトラックをデザインすることだったのです。重要なのは、顧客に電気自動車に買い換えることを説得することではなく、まずドライバーに愛され、かつ地球にも優しいクルマをデザインすることだったのです。
F-150ライトニングの電気自動車は、あまりに人気があったため、フォードは予約販売を中止せざるを得ませんでした。デザインの初期段階から気候変動に配慮した意思決定を行うことで、フォードはサステナビリティの目標を達成すると同時に、株主価値を高めることができたのです。
このようなサクセスストーリーは、人々や地球にとって良いことをすれば、ビジネスもうまくいくことを証明しています。しかし、それはデザインの段階で気候変動に配慮した意思決定がなされた場合に限られます。今こそ、サステナビリティの最高責任者をイノベーションの最高責任者にすることを考える時ではないでしょうか。あるいは、その逆もしかりです。これからのすべてのイノベーションは、気候変動時代に適したものでなければなりません。
ここで浮かび上がってきた問い:
「企業はどのようにしてサステナビリティチームを自社の最も戦略的な意思決定に参加させることができるのだろうか?そして、そのような場に呼ばれるためには、チームにどのように変わってもらわなければならないだろうか?」
「気候変動時代の経営陣にはどのようなスキルが必要で、どのように能力を構築すればよいのか?」
2. 小さく始めて素早くスケールさせる
すでにビジネスがポジティブなインパクトを与えていると感じている企業幹部の間では、「小さく始める」というテーマが浮上しました。
小規模なブランドをデザインし直すことや小規模な製品ラインの導入は、コアビジネスを破壊することなく、主要な仮説に取り組むことができる、リスクが少ない方法です。そして、小さな成功体験を積み重ねることで、気候変動時代のイノベーションが利益を生むことを経営陣に説得することが容易になります。
H&Mのデザインスタジオの Catharina Frankander と Hanna Lumikero は、新しいサステナブルなパッケージングを小規模でテストすることから始めたといいます。顧客中心のアプローチで、繰り返しテストを行うことにより、大きなスケールで紙のパッケージングが実現可能かどうかを理解する前から、顧客に紙のパッケージングというコンセプトを紹介しはじめました。その規模から始めることでプロジェクトは圧倒的な成功を収め、組織全体で紙のパッケージングを採用する道筋が見えてきました。
ここで浮かび上がってきた問い:
「どうすればサステナビリティのビジネス価値を示すために適切な第一歩を選ぶことができるだろうか?」
「どうすれば小さな成功をプラットフォームやシステム全体のイノベーションにつなげることができるだろうか?」
3. 人間的な解決策にフォーカスする
そもそもこの問題を引き起こしたのは人間です。解決しなければならないのも私たちなのです。
このグループでは、気候変動は単なる環境危機ではなく、人間の行動の危機であるという点で意見が一致しました。株主には短期的な飛躍的成長を、顧客には無制限の消費を約束し続けるのであれば、資源の採掘を抑制することはできないでしょう。
しかし、厳しい行動療法を施す以外に、企業はどのようにして短期的な満足の悪循環を断ち切ることができるのでしょうか?
サーキュラー・エコノミーはパラダイムシフトをもたらし、規制と組み合わせることで、資源採取と成長を切り離すことができるようになります。これは単なる技術的な課題ではありません。それは、短期的な利益を無視することなく、顧客、従業員、株主などのさまざまなステークホルダーの要望を長期的な視点を持って考慮することです。
スイスのアスレチック・アパレル・ブランドである On は、サブブランドでそのようなアプローチをとっています(上記のアドバイスの通り、小さなことから始めています!)。この会社は、豆を使ったランニングシューズを発表しました。このスニーカーがゴミにならないように、Onは月刊誌のような定期購読モデルを提供しています。ランナーは靴が擦り切れるまで使い、リサイクルのために送り返すと、代わりの靴を受け取ることができる。このような循環型モデルは、消費者にはトレンディーで新しいものを楽しむという短期的な喜びを与えると同時に、埋立地に捨てられない製品という長期的な共有価値を支持するものです。
長期的思考と短期的思考のバランスをとることは、B to B の世界でも重要な行動変容です。ある出版社の幹部は、クライアントから、印刷所で紙くずがどのようにリサイクルされているかなど、制作の各段階における環境フットプリントを報告できるのであれば、書籍の制作を依頼する大規模な契約を結ぶと言われたエピソードを紹介していました。そのような説明責任を求められたことで、その出版社は自らの行動を検証し、たとえ短期的なコストがかかるとしても、長期的な変革のために投資するようになったのです。
ここで浮かび上がってきた問い:
「どうすれば気候変動時代に対応するために、さまざまなステークホルダーを考慮し、長期的な視野で考える姿勢を取り入れられるだろうか?」
「どうすれば、サステナビリティはチームにとって最もやりがいのあるチャレンジであることを理解した上で、より多くのワークストリームに組み込むことができるだろうか?」
4. コラボレーションなくして成功はない
グリーンソリューションを推進するために適切な人々をつなぐことは、すでに難しいことです。競合他社や規制機関とのコラボレーションを提案したところ、「ほとんど不可能だ」という声が多く聞かれました。
市場シェアを競うために作られた企業は、コラボレーションをするための環境が整っていないため、コラボレーションが行われたとしても、資金不足で不器用なものになることが多いのです。しかし、気候変動に関するシステマティックな問題は、ひとつの企業だけでは解決できないことも分かっています。
このパラダイムを打破するための最近のパートナーシップのひとつに、Beyond the Bagという、道路や水路に流れ込む何百万枚ものレジ袋の問題を解決するための取り組みがありました。
Closed Loop Partnersは、サーキュラー・エコノミーに焦点をあてた投資会社であり、イノベーションセンターでもあるのですが、IDEOとCVSヘルス、ターゲット、ウォルマートなどのアメリカ最大のチェーン店のグループと一緒にコンソーシアムを結成しました。このコンソーシアムは、レジ袋の代替に革新的なアプローチをとっているスタートアップと協力しました。これらのチームは、量販店での試験運用を行い、IDEOのデザイナーが彼らと協力して、より早く市場に向けてスケールさせるためのアイデアを繰り返し提案しました。
CVSヘルス、ターゲット、ウォルマートは、通常、互いに競合しています。しかし、レジ袋の廃棄という大規模な課題に取り組むには、力を合わせる必要があると考えたのです。
ここで浮かび上がってきた問い:
「どうすれば、より多くの産業横断的なイノベーションにインセンティブを与え、資金を供給できるだろうか?ここで公共部門はもっと大きな役割を果たすことができるだろうか?」
「我々は、垂直的な抽出プロセスにおけるオペレーショナル・エクセレンスを発展させてきた。どうすれば事業横断的なコラボレーションにおけるオペレーショナル・エクセレンスを発展させられるだろうか?」
5. この分野に興味がある人材を引き寄せる
多くのシニアリーダーは、人材確保が大きな危機であり、賢く、情熱的な人材がいなければ、変革的な仕事はできない、と述べています。この点には全員が同意しました。私たちは、優秀な人材を確保しなければならないのです。
Pew Research Centerが最近行った調査では、学生や若いプロフェッショナルは、以前の世代よりも気候の危機に敏感であることが指摘されています。
ある経営者は、部門を超えたサステナビリティ・プロジェクトに取り組むことで、従業員のモチベーションがかつてないほど高まったと述べています。気候変動対策の目的と計画を明確に示すことができる企業は、目の前の課題に取り組むために必要な人材を採用し、確保することが容易になるはずです。
ここで浮かび上がってきた問い:
「サステナビリティチームは、優秀な人材を獲得するために人事部と提携することができるだろうか?」
「どうすれば気候変動への挑戦を、組織全体の人材活性化のプラットフォームにすることができるだろうか?」
この仕事は待ったなし
このような会話は、一般的なビジネスの会話と比べると、あまり美化されていないように感じられますが、その中で明らかになったことがあります。リーダーたちはよりサステナブルになることを約束しながらも、しばしば手詰まりを感じ、実質的な進展を遂げることができないでいるのです。私の結論は、進捗状況を共有し、何が私たちを妨げているのかを率直に話すために、このようなフォーラムがもっと必要であるということです。
IDEO Tokyoでは気候変動やサーキュラー・エコノミーに取り組んでいます。ぜひお気軽にtokyo@ideo.comまでご相談ください。
Luis Cilimingras
Partner, Munich
Luis Cilimingras is a partner at IDEO London. He is passionate about how organizations embrace creativity to feel more confident about their growth, impact, and future.
Alicia van Zyl
Creative Lead, New York
Alicia is a jack of all trades and has actually managed to master quite a lot of them. She combines concept, design, illustration, lettering, motion and strategy seamlessly to tell beautiful stories.
Reuben Dsilva
Senior Designer, Munich
Reuben is an interaction designer with a strong visual edge. He is passionate about creating digital experiences that are beautiful from the inside and out.
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