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新しい働き方で日本はイノベーションの旗手となる

Feb 16, 2023

欧米から見ると、日本はハイテクの最前線にあると思われてきました。不思議なロボット、考えつかない商品を売る自動販売機、仮想現実に没頭するゲーマーなど、未来的で斬新なニュースは、いつも東京から発信されているように思います。しかし、もしこの国の組織がテクノロジーと同じペースで変化しないのであれば、この状況は続くでしょうか?

2022年8月、英国政府のDXなどで知られるPublic Digitalからアンドリュー・グリーンウェイ氏が来日。IDEO Tokyoでもイベントを開催し、世界中さまざまな地域で組織変革に取り組んだ経験を基に、日本のDXについて意見を交わしました(イベントレポートはこちら)。グリーンウェイ氏が自身の経験を基に、日本の組織がDXに取り組む際のヒントを語ってくれました。滞在中に日本のさまざまな人・組織と関わる中で感じた日本社会とDXに対する希望も話しています。

Public Digital パートナー アンドリュー・グリーンウェイ氏

DXは「人」からはじめる

日本は、この電子時代において、クリエイティビティを充分に発揮してきたと常々に感じていました。しかし、私が昨年の夏に東京で話をした多くの人々は、自分たちの将来についてあまり楽観的ではありませんでした。彼らは、自国が遅れを取っていると感じ、不安を語っていました。

しかし、もっと大きな不安は技術に関することではありません。「人」に関するものです。特に公共部門と民間部門の両方において、組織が本当にデジタル・トランスフォーメーション(以下、DX)の機会と課題に対応する準備ができているのかということです。日本の大企業に典型的に見られる保守的なアプローチが、組織の足かせになっていると多くの人が感じています。特に若い世代はそうした組織に幻滅しやすいです。結果として、気候変動、人口動態の変化、公衆衛生など、世界がいま直面している最大の課題に取り組みやすい、創造性や起業家精神、勢いがある組織を求めてキャリアを変えます。

「DXとはテクノロジーと同じくらい、『人』に関するものである」。日本でも台頭しつつあるこの考えは、私個人の意見とも一致しています。私の所属するPublic Digitalでは、「デジタルとは、インターネット時代の文化、プロセス、ビジネスモデル、テクノロジーを応用し、人々の高まる期待に応えることである」と定義しています。つまり、技術革新があっても、それを最大限に活用するために組織自体が変わらなければ、その効果は非常に限定的であるということです。

変革に向けて動くために、組織の状況を把握する

組織が本当の意味で変革に向けて賢明な一歩を踏み出すには、現在の状況をきちんと把握することが必要です。ほとんどの組織は、DXを成功させるために必要な働き方への準備ができていないことを肌で感じていますが、何がその妨げになっているのかを言い当てることに苦慮します。なぜならそのような阻害要因は、組織の考え方や仕事のやり方に深く浸透しており、もはや長く根付いた組織の特徴としてしか認識できないからです。

日本のように成功例が比較的少ない国では、インスピレーションを得るために参考となるような事例を見つけることも容易ではありません。Public Digitalは、ハーバード大学のビジネススクールと共同で、デジタル成熟度スケールを開発し、政府のDXがどの段階にあるのかを特定するのに役立てました。その後、大規模で複雑な企業にもこれを適用し、IDEOにも独自のデジタルフィットネスを実施してもらいました。地図がなければ、自分がどこにいるのか、どこへ行こうとしているのか、わかりません。組織の現在地をきちんと把握して、DXの新しい課題にうまく適当している企業と比較できれば、変化を生む勢いを組み立てることができるのです。

目に見える形で変化を示し、「変化疲れ」に対抗する

組織はすべてを一度に解決しようとする誘惑に駆られることがよくあります。ほとんどの大企業は、過去30年の間に大規模な変革プログラムに着手してきました。 これらのプログラムは多くの混乱と疲労を生み出し、本当の意味での変化はあまり見られないことも多かったでしょう。経営陣と従業員も同じように「変化疲れ」を抱いており、変化が必要だと主張する人々に対して懐疑的になっているのです。DXは過去に試した大規模な変革プログラムと何が違うのか?なぜ信用する必要があるのか?

「変化疲れ」に対する最も強力な対抗手段は、変化を言葉で説明するのではなく、その違いを目に見える形で示すことです。DXの場合、その最も効果的な方法の一つが「ビーコン(灯台)プロジェクト」に着手することです。比較的少数の顧客に提供するような新しいデジタル製品やアプリを生み出すのです。これは「DXが企業に何をもたらすのか」だけでなくこのプロダクトを維持し、世に生み続けるために「企業がどのように仕事に取り組むのか」を示すことができます。最初は小さくても、顧客や従業員、そして利益に実際にインパクトを与えるようなシンプルなことに着手すると、パワーポイントのスライド1000枚よりもはるかに説得力を持って、DXに取り組む価値を説明することができるのです。ビーコンプロジェクトは、変革が成果をもたらすという信じる力を組織の中に呼び起こすことができます。規模の拡大はそこから取り組めばいいのです。


ペルー最大のコングロマリットであるIntercorp社は、パートナーであるIDEOと協業しこれに取り組みました。45のグループ企業の中から、模範となるようなビーコンプロジェクトを生み出す支援をしたのです。各ビーコンは、さまざまな専門分野を持ったメンバーによってアジャイルチームを組成し、具体的で顧客志向のテーマに焦点を当てました。その一例が、医薬品小売業者InkaFarmaの顧客向けの高速宅配サービスです。

組織自体のあり方を変えて本当のインパクトを生む

DXがもたらす価値の可能性を組織が具現化し始めたら、最もチャレンジングな課題に取り組む段階です。それは、こうした新しい働き方が例外ではなく、標準となるように組織そのもののあり方を変えることです。DXとイノベーションは、組織の端っこにとどまっていては、それほど強力なものではありません。それらをビジネスとして成立させることが、本当の意味でのインパクトとなるのです。

このような組織レベルの変革は、トップから始まります。DXのための強力なシニアリーダーシップは、長期的な成功のために必須となる前提条件です。しかし、この基盤を生み出すことは困難を伴います。日本では、他の多くの国々と同様、デジタルとテクノロジーは、財務やマーケティングほどには、経営幹部にとってなじみのあるテーマではないでしょう。しかし、デジタル技術は組織の戦略的な将来にとって同じくらい重要なテーマなのです。

だからといって、CEOやシニアリーダーは必ずしもDXの専門家になる必要はありませんし、コードの書き方を知っている必要もありません。必要なのは、そうしたリーダーが組織のDXを効果的に管理する好奇心と自信を持つことです。彼らは、実践者のチームをサポートする方法を知り、理にかなった課題を提供し、チームメンバーに尽くしながら、組織を導くリーダーとして、成果を阻む内部の障害を取り除いていく必要があります。このようなリーダーの資質がなければ、組織内でDXを拡大することは難しいでしょう。

Public Digitalでは、世界中のリーダーたちに、DXを効果的に推進し、挑戦し、支持する立場として役割を果たす方法を教えてきました。1,000 人以上の英国の国民保健サービスのリーダーたちと取締役レベルのセッションを行い、複数の政府の閣僚を指導してきました。ほぼすべてのケースで、リーダーが求めているのは、専門用語を打ち破る共通の言語、DXを実践するチームが最高の仕事をするための組織的条件をどうすれば整えられるか、そして、人前で質問するのが恥ずかしいような質問もできるような安全な空間の3つです。最後のポイントは特に重要です。DXの優れたリーダーシップには、自信と大胆さが必要です。それを身につけるには、まず学ぶ自由が必要なのです。

新しい働き方で日本は世界の課題に取り組むリーダーになれる

私の中の楽観主義者は、日本が地球が直面する最大の課題に取り組む道筋を見出すリーダーとなる可能性があり、DXは必然的にその一翼を担うことになると考えています。それは簡単な道のりではありませんが、やりがいのあるものです。そのためには、バランス感覚が必要です。現代生活の問題は、急進的な人々が思慮深くないこと、そして思慮深い人々が急進的でないことであると言われています。未来を生かし、「変化疲れ」を克服するために、日本はその両方に対応できる人材を発掘する必要があるのです。


IDEOと英国Public Digitalは、プライベートセクターにおけるDXプロジェクトで提携しております。何かご質問があればtokyo@ideo.comまでお問合せください。

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