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デジタル・ヘルスケアをより人間中心にするための5つの原則

Apr 27, 2022

診察室に足を踏み入れることから、毎日のサプリメント摂取に至るまで、ヘルスケアシステムは、人間のために、そして人間によってデザインされたものです。しかし、ユーザーやその家族、サービス提供者や医療従事者など、ヘルスケアのコアである「人」がシステムの犠牲になってしまうことがあります。ヘルスケアとのインタラクションが多様化し、スクリーンを介したものが増えるにつれ、人間中心のシステムを設計する必要性が高まっています。本来、デジタル・インターフェースは、人々が自分自身の健康をコントロールしやすくするものですが、その一方で、意図に反して不毛なインタラクションを増やしてしまう可能性もあります。

デザイン会社IDEOのディレクターとして、私は何十社ものクライアントと一緒に、製品やサービスに人間中心の見方を導入するお手伝いをしてきました。その中で、糖尿病などの慢性疾患と向き合う患者さんのためにテクノロジーを活用することの素晴らしさを目の当たりにしてきました。しかし、画面に向き合いピクセルやビットばかりを気にしたデザインでは、エンドユーザーを見失いがちであることも事実です。

「ヘルスケアをより人間らしく」を単なるマーケティングスローガンで終わらせないためには、デザイナー、起業家、ビジネスリーダーは、自分たちがサービスを提供する人々を念頭に置く必要があります。これはデジタル製品をデザインする際に、特に重要です。以下に紹介する5つの原則は、人間のニーズを常に中心に据えるために私たちがIDEOで活用しているものです。


1. ユーザーが生活している場所でユーザーに会う

人間中心デザインとは、収入、雇用、食の好み、感情など、ユーザーの生活全体の状況を考慮してデザインすることです。また、人の健康について考えるとき、各々のユーザーが持っている期待、学習した行動、テクノロジーを使いこなす能力も勘案する必要があります。

IDEOでは、常に完全なユーザージャーニーを作成することを心がけています。ユーザーは人間なのでめ、デジタル製品やツールとの接し方が一貫しているとは限りません。例えば、血糖値を測定する機器をデザインする過程で、多くの糖尿病患者が規則正しいスケジュールで血糖値を測定していないことに気づきました。なぜでしょうか?生活のさまざまな出来事が邪魔をするからです。

しかし、糖尿病教育認定医(CDE)はできるだけ正確な情報を必要とするため、患者さんに診察までの2週間はできるだけ定期的に検査するようにお願いしています。ここにデザインが介入できる機会があります。デジタルツールは人々のポケットの中や家庭にあるため、対面式の臨床ケア環境よりも踏み込んで、個人に合わせたソリューションを提供することができるのです。患者さんがどのように製品を日常生活に取り入れているかを観察することで、患者さんの生活の中で機能するソリューションをデザインすることができます。ユーザーと同じ目線に立つことで、時間をかけて有意義な行動変容を促すことができるのです。


2. ギブ・ゲットループの構築

定期的な診察の際に、医療従事者からデジタル製品やサービスを紹介されたとします。あなたは、付属のアプリを検索し、App Storeからダウンロードするでしょう。その後、チュートリアルなどを経て、ユーザー名とパスワードを作成し、プッシュ通知を受け入れるかどうかを選びます。また、機密性の高い健康情報の共有や、アプリがそれにアクセスすることへの同意を求められることもあります。

こうしたステップはすべて、あなたが製品やサービスから具体的な価値を得る前に起こっています。ユーザーにとって明確な利益がない場合、この初期段階で多くが離脱してしまうことは珍しくありません。


初期のユーザー離れに対処する方法のひとつに、「ギブ・ゲット」ループがあります。例えば、食事制限を入力してもらうことで、ユーザーに合わせて作成された栄養に関する提案をしたり、住所を入力してもらうことで、特定の地域に根ざした情報を提供することができます。優れたUXデザインは、そのデータを組み込んで、ユーザーに利益をもたらすアクションのサイクルを作り出します。目的に則したデータを収集する条件を整えることができれば、パターンを見出し、ユーザーが新しい行動を開始するインサイトを発見する手伝いができます。

しかし、その一方で、機密情報の受領者、保有者として、自分たちが担う役割には留意する必要があります。意図したユーザー体験を生み出すために必要な「最小限のデータ」しか収集しないよう、注意しています。


3. 人とテクノロジーの関係をデザインする

慢性疾患を管理するためのUXデザインは、ソフトウェアや技術以上のものに依拠する必要があります。主要なユーザーとそのケアプロバイダーのネットワークやコミュニティの人々との関係は、製品の成功に大きく関わっています。ユーザー体験は、より大きなサービスエコシステムの一部であり、そのシステム内の結び目がどのように相互作用するかを考慮する必要があります。

製薬会社は、適切な時間・適切な方法での薬の服用を患者に遵守してもらうため、よくデジタルツールを使用します。しかしデジタルソリューションは、薬の服用を遵守させることにとどまらず、急性期や緊急の医療ニーズを超えた全人的なケアをサポートすることができます。

デジタル体験が患者の健康的な生活を支援できれば、特定の疾患だけでなく、全体としてより良い健康状態を実現するためのツールとなります。さらに、急成長しているデジタル・セラピューティックスの分野では、デジタルヘルス製品自体が、身体、精神、行動の状態を治療するための、効果的で実績のある手段として機能するようになりつつあります。


4. "デバイス "という枠にとらわれないこと

2006年にIDEOがバイエル・ダイアベティスケア(現アセンシア ダイアベティスケアは)と仕事を始めたとき、糖尿病患者は自分で血糖値を記録するか、医師にメーターを見せることで自分の血糖値データにアクセスできるようになっていました。Contour USBは、血糖値計をパソコンに接続し、すべての測定値を1つのドキュメントに転送することを可能にし、デザインの新しい可能性を切り開きました。Contour USBが発売されると、次のデザイン課題は、よりシンプルで安価なものにすることでした。そこで私たちは、すでに検討されていた「カラー画面」に着目しました。

カラー画面はふんだんな情報を提示する新しいチャンスと思われるがちです。しかしこのケースでは、食事のマークや日付、時間といった単純なデータを表示するためにしか使われていなかったのです。人間中心デザインの観点からは、見づらく、価値になりづらいカラー画面を廃止して、スマートフォンやPCを利用する方が合理的でした。カラー画面は無駄なコストをかけている割に、十分な利益をもたらしていなかったのです。

解決策ではなく、結果を重視することで、自分たちの盲点に気づくことができました。技術で解決できるからと言って、必ず解決しなければならないわけではありません。


5. 組織の進化を導く

デジタル製品やサービスを生み出すことで、それを提供する組織には、新たな能力を身につけたり、今までにないプロセスを考える必要が出てきます。デジタルのユーザー体験は生きたシステムであり、絶えず変化する状況に対して、サポートするための組織的な投資と構造が必要です。デジタル体験のデザインが終わったと思ったら、すぐにソフトウェアのオペレーティングシステムが変わったり、新しいデータプライバシー法が制定されたり、コンテンツパートナーが契約ルールを変更したりと、常にさらなる改良が必要とされます。

今日、グローバルなサービスを大規模に提供する多くの企業は、それぞれ異なるターゲット、ゴール、それに沿った指標を中心に縦割り組織で業務を行っていることがほとんどです。この課題に対して、新しい実験的な働き方を通じて、組織が直接的に取り組んでいる例がいくつかあります。企業のイノベーションラボや社内インキュベーター、あるいは全く別のベンチャー企業など、事業の一部を切り離すことで、中核となる事業目標を損なうことなく効率的に実験を行うことができます。そして、コンセプトの実証が成功したら、その学びを組織の他の部分に取り入れることができるのです。

デジタル製品やサービスは、たとえ最も機動的で柔軟な組織であっても、初日から進化と改善を続ける必要があります。これは、車を買うときの古い格言のようなもので、一度販売店の駐車場を出た車は、その瞬間に価値が下がってしまうのです。デジタルソリューションは発売後、すぐに次のアップデートを計画することが重要です。エンドユーザーのニーズに耳を傾けることで、どこから手をつければいいのかが見えてくるはずです。

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