The Story of the Wild Geese

ポール・ベネット, IDEO チーフ・クリエイティブ・オフィサー



2017年12月、私はブログにこう書いた。

「今年の私の新年の抱負は、去年と同じだ:世界の複雑さや混沌を、単なるフラストレーションと捉えるのではなく、インスピレーションの源として活かすこと。光、喜び、前向きな視点を探すこと。人に内在する善を信じること。常に革命に続くルネッサンスの一部になること。私は、デザインの役割を昇華させ、インクルージョン、寛容、平等、勇敢さといったテーマに取り組むことを強く望んでいる。2018年は、自ら変化を起こす年であり、自然に変化が起こることを願うだけの年ではなくなる。」

これは、2年以上前のことだ。 今、私たちは、変化を求められている。


あれ以来、毎日世界では何らかのエスカレーションが起きている。加速する気候変動、グローバリズムとナショナリズム間の緊張、貧困と不平等、性暴力、権力と平等の危機、フェイクニュース、過激主義の台頭、リーダーシップの欠落。そして何より、我々自身が、誰も、何も信用できなくなっている。難民の波がそれぞれの国から逃れようと押し寄せ、いくつかの都市は水に浸かり、ある都市は自然火災に襲われるのを、我々は恐怖の中で見守ってきた。オーストラリアのコアラが声を発することもなく立ちすくみ、イナゴの大群がアフリカを襲う様子を見て、嘆いた。そして今、最悪の恐怖、今までで最大の恐怖に直面している。我々は今、パンデミックの真っ只中にいる。

私も先週は多くの人と同様、自宅で自粛し、ニュースと友人たちの話の間を彷徨ったり、大惨事の映像と、好きな猫の動画を交互に見たりして過ごしていた。そんな中、最前線で活動する人々とつながり、彼らが目下取り組んでいること、またそれ以上に重要な「我々にできる支援」とは何か、直接ヒアリングできたのは幸運だった。
私は常々、ルネッサンスには革命がつきものだと信じている。今の社会、特に、社会における”クリエイティブ・シンカー(創造的思考を実践する者)”としての我々の役割は、楽観的であると同時に現実的であり、可能性の光を示し、物事が良くなると信じ、同時に、問題解決の方法を考える現場に関わり、共に汗を流すことだと考えている。

行動を起こすことに駆り立てられた我々は、パンデミックに直面した人々からインサイトを集めるべく、オープンソースのチャレンジを構築し、一般公開した。同僚、友人、パートナー、そして世界中の人々が、今すぐ取れる行動、やるべきこと、直ちに実現できることについて、アイデア、インスピレーション、提案を持って飛び込んできてくれた。なんと最初の24時間以内に300以上の投稿があり、かつてないほどのスピード感とボリュームで寄せられる人々の善意に、私は頭の下がる思いだった。

これは大海の一滴かもしれないが、我々が皆で探しているもの、希望の光、参加する場所、話し合う場所を、強力なシグナルとして示してくれたと思う。
心を打たれる、そして希望を感じさせるストーリーが、中国やアフリカからも寄せられている。新型コロナウィルスに感染した高齢者の肺のスキャンを終えた武漢の若い医師は、その患者を病室に搬送する帰り道、数分立ち止まり、その患者と共に夕日を見つめたという。アフリカは、遺憾なことに既にエボラ出血熱のようなパンデミックを経験し、我々の多くが今必要としている、生きた学びと行動を体得している。我々が今、耳を傾ける必要があるのは、こうした現場からのインサイトなのだと思う。


来るべき時がきた。
個人、企業、そして何よりも政府が一歩踏み出す時がきた。政府には、率先し、傾聴し、行動し、何よりも市民の目を見て、 "我々は君たちを見ている" と伝えてほしい。同僚、従業員、市民、地域社会などの人々がどのように扱われるかは、我々一人ひとりと、この社会の将来を決定づけるものであり、誰もが注目している。

今が、その時だ。
政治や戦略、フレームワークや混沌を、合理的に分析している場合ではない。もちろん、深刻な状況下では、真剣に検討する必要がある。しかし、人々はシンプルな行動、決断力を求めており、何よりも、解決策の一部になることを求めている。人々は役に立ちたいと思っているし、彼らに助けを求めることが我々の仕事なのだ。

これは、今から永遠に続くものだ。
文字通り、これから数週間の間に何が起こるかによって、今を生きる国々の運命が決まり、未来に国々がどのように繁栄し、他国からどのように見られるかが決まる。行動だけがものを言う。言葉やレトリックは失われる。

この話で、終わりにしたいと思う。
2011年の大地震、その後の津波、そして福島原子炉のメルトダウンの危機から数ヶ月後、私は最も壊滅的な被害を受けた東北地方を訪れ、何か希望を与える話をして欲しいと依頼を受けた。私はそこで、雁の行動について話をした。
まず第一に、雁は決して一羽で行動することはなく、群れの中にいる。彼らは必ず隊列を組んで飛び、一羽たりとも取り残されることはない。二つ目に、雁たちは同時に羽ばたくことで、それぞれの鳥が他の鳥を上昇させ、集団としてより長い距離を飛ぶことができる。三つ目に、先頭の雁は疲れてくると、群れのなかに戻り、別の雁に先導させる。そして、私が最も感動したのは、前方にいる鳥たちが飛び続けられるように、一番後ろにいる雁が大きな鳴き声をあげて励ますという習性だ。


私がこの話をした理由。それは、雁は基本的に協力的な種だからだ。彼らは互いに依存しており、互いの存在の必要性を認識し、協働したいという欲求を持っている。彼らが役割をローテーションする仕組みは、雁がグループとしての回復力を持っていることを意味し、誰もが平等に役割を果たしていることを皆理解している。そして、チームが前進を続けるために後ろから鳴き声をあげることによって、「良いリーダーシップは、先導するのと同じくらい、チームを励ます行動があってこそ発揮される」と示しているのだ。

今、皆で羽ばたき、互いが上昇することを助け、それぞれが自分の役割を持ち、皆のアイデアが注目されるべき時が来ているのではないだろうか。何よりも、手を携えながら群れを成し、皆で飛び続ける時がきているのではないか。

来るべき時がきた。今だ。そしてこれは、永遠に続くものだ。


私は今、大きな鳴き声をあげている。

※このシリーズの原文(英語)は、Mediumに投稿されています。

The Charm of The Capybara
The value of niceness in the cruelest of times

The Saga of the Husky
How to run together in these runaway times
(和訳)

The Story of The Wild Geese

How to fly in formation in unprecedented times

The Chronicle of The Canary

How to breathe together in these breathless times

The Parable of The Sea Otter

How to swim together in unprecedented times

雁の群れに学ぶ、未曾有の時代の生き方

Apr 2020

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