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嵐の中を共に駈け抜けるために

ポール・ベネット, IDEO チーフ・クリエイティブ・オフィサー

数年前の冬、私とパートナーはアイスランドを旅行で訪れていた。人里離れた山道を車で走っていると、「Husky Sledding (シベリアン・ハスキーの犬ぞり)」という看板が目に入ってきた。いつもならこのような観光客向けのアトラクションは無視するのだが、その時はなぜか気になり、ついハンドルを切った。急な勾配を上りキャビンにたどり着くと、そこには数十匹ほどのハスキー犬がいた。見とれていると、犬たちは2つのグループにきれいに分かれていることにすぐ気づいた。一つのグループは、唸ったり、吠えたり、お互いに威嚇しあったりと、無秩序な状態。対照的にもう一つのグループは、等間隔にピシッと雪の上に座り、落ち着いた状態で、まさにこれからそりを引く準備ができている様子なのが伝わってくる状態だった。当然、この落ち着き払った犬たちは年齢も上なのだろう、と私たちは話していた。ただ、聞いてみると、実は年齢の差ではなく、落ち着きのあるグループはハスキー犬の雌であり、落ち着きのないクレイジーなグループは雄であることがわかった。

いよいよ犬ぞりに乗ろうとすると、八匹の雄が連れて来られ繋がれ、そのあと二匹の雌が先頭に繋がれた。犬ぞりの運転手にその理由を尋ねると、よくぞ聞いてくれた、と言わんばかりに、「雌のハスキー犬は方向感覚に優れているのですよ。それに彼女たちは群れを励ましながら導くのがうまいのです。雄はそれについて行くのです。雌がいないと雄たちは混乱し、吠えまくって、噛み合いながら全然前に進まないのです。」

実際、我々の世界においてもこれは事実であるという点について、敢えて説明をする必要はないと思う。周りを見渡して欲しい、誰にも思い当たる節があるはずだ。

私の母はそれは頑固なスコットランド人で、私の父親と結婚するためにグラスゴーから駆け落ちしたような人だった。私は三人兄弟の末っ子で、二人の姉と、この母親に囲まれて育てられたので、芯の強い女性については慣れている方だと思う。自分の人生を振り返ってみても、女性は私に多くの影響を与えた。アートやクリエイティブの世界を目指すよう勇気付けてくれた、お気に入りの二人の先生は女性だった。大学で「あなた自身のクリエイティブを見つけなさい」と励ましてくれたのも女性の教授だった。言うなれば、今の私は多くの女性によって形成されたと言っても過言ではない。

私自身、いわゆる旧来の「男らしさ」を意識し、順従に従うようなタイプでもなかった。11歳の時、祖母がやっていたかぎ針編みに興味をもち、今日まで編み続けているし、先日、英国王室のジョージ王子がバレエレッスンを受けたことをメディアがバッシングした際には、怒りに震えたくらいだ。長年、この旧来の「男らしさ」という呪縛に悩まされた私としては、これからの男子がいわゆる「女らしい」とされるような物事に自由に取り組み、楽しめるような世になることを願うばかりだ。

さて、現在の話に戻そう。今回の危機的状況における首相や、市民団体の指導者などの女性リーダーの活躍については多くの記事が書かれれいるが、その多くに私は共感し、強く同意する。COVID-19という難題に対し、まるで雌のハスキー犬のように自らの嗅覚を生かし、周りを励ましながら走り抜けていった女性指導者たちの姿に私は感動した。もちろん全ての男子が混乱に陥っていたわけではない。ただ、多くの男子は、まるで雄のハスキー犬のように、吠え合い、噛み合っていたように私の目には映った。

新型コロナウイルス対策に各国が追われている中、ノルウェーのアーナ・ソールバルグ首相はかなり早い段階で、テレビを通じて国内の子供たちに直接語り掛けた。「たくさんの子供達がいま怖がっています。こんなにも多くのことが、一度に起こっているのですから、すこしばかり怖がってもいいのです。」と伝え、同時に自分たちの親が万が一感染しても大抵は治るので安心してほしいことや、お誕生日会が開催されないかもしれないこと、そして家にずっといて、友達に会えないのは、つまらないかもしれないことを、わかりやすく伝えた。

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相はテレビを通じて、イースターバニーと歯の妖精(Tooth Fairy)は「必要不可欠な労働者ですよ」と伝えた。ただ、イースターバニーたちも自分たちのベイビーバニーを面倒見ていて、今年はプレゼントをもってこれないくらい忙しい、と指摘した。彼女はこのようなメッセージを通じて、当時失いつつあった日常感や平常時の感覚を少し取り戻そうとしつつ、同時に政府に対し懐疑的で、関心を失いつつあった若者たちにも伝わるような言葉で語ることを常に意識していた。

緊急時にこのような施策を取ったノルウェーとニュージーランドでは、政府が自分たちのことをちゃんと見て、考えてくれていると信じれられる、という世代が今まさに育っている。この新たな世代を率いる雌のハスキー犬たちはわかっているのだ。このような危機的状況において必要なのは、単に母性で優しく包み込むのではなく、自らの母性的な直感力を最前線に持ち込み、リーダーシップを発揮することであると。

今回の混乱の中で、ドイツのアンゲラ・メルケル首相は、最も落ち着いたハスキー犬だったと言えよう。30年以上のキャリアを通じて磨いた彼女の熟慮断行のスタイルが、今回は冴え渡った。長年、メディアから、「あまりエキサイティングな政治家ではない」と批評されてきた(その多くは男性から)彼女だが、今回はその思慮に富んだ取り組みが際立ったと言える。彼女の判断の多くは事実やデータに基づいており、必要以上に自分の考えを主張したり、過度に演出しようともしなかった。また、メルケル首相は自分自身がそれなりに医学や学術的な専門知識に精通しているものの、決してそれをひけらかすのではなく、むしろ素人であることを認め、積極的に周りに頼りつつ、相手を立てることも忘れなかった。私にとって彼女は、不安を煽ったり、情報隠しに走らず、事実やデータに基づき、オープンな姿勢でCOVID-19に取り組む新たなアプローチの象徴に見えた。3月にあったテレビのスピーチで、彼女は起きている事象を認めつつ「自分一人がどう行動してもあまり関係ないだろう、などと一瞬たりとも考えないことです。関係のない人などいません。全員が当事者であり、私たち全員の努力が必要なのです。」と静かに伝えた。

誇張されたニュースに人々が飛びつき易い今だからこそ、同じように吠え続けるリーダーではなく、嵐を通り過ぎるのをじっと待てる、落ち着きのある雌のハスキー犬のようなリーダーが必要なのだ。

ここでアイスランドに戻ろう。環境問題にも関心が高いカトリン・ヤコブスドッティル首相が提唱しているのは、経済成長の指標にとらわれない、環境や家庭を重視する「ウェルビーイング(well-being、幸福)」政策の推進だ。アイスランドといえば、幸福度指数上位の常連国という印象があると思うが、それ以外でも男女平等が当たり前であり(世界男女平等ランキング 11 年連続第1位)、革新的な政策に取り組んでいる国としても有名だ。

新型コロナウイルスへの対策についても、レイキャビクに拠点を置く生物医薬品会社のdeCODE Genetics社と協力しながら、国民全員に対し無料の新型コロナウイルス検査を提供しつつ、感染拡大を防ぐためのプライバシーに配慮した接触者追跡アプリも導入した。また、ヘルスケアのフロントラインで働く多くの女性たちについて触れ、彼女たちをサポートしていくことの重要性を説いた。この他にも他国と比べて小規模だがSNSも活用し、政府が常に情報に接触できるように心がけた。ギャラップ・インターナショナル・アソシエーションが実施した新型コロナウイルスに関する調査によると、96%のアイスランド人が自国政府はうまく対処していると思い、取り組みの結果が誇張されているように感じたのは7%に止まった。

アイスランドの幸福度を支えている、一つの要因が国民が政府に寄せる信頼であり、政府の施策が自分たちのために作られているという実感だと思う。アイスランドが平等な社会でいられるのは、早い段階で経済政策以上に、インクルージョン(包括)とウェルビーイング(幸福)の重要性に気づいた雌のハスキー犬によって牽引されているからだ。彼女たちは人々に対するケアがなければ、国の回復はないことを知っている。

他にも、デンマークのメッテ・フレデリクセン首相、フィンランドのサンナ・マリン首相、台湾の蔡総統など素晴らしいリーダシップを発揮した女性たちを忘れてはならない。

なぜこの話をするのか?それは、今こそ時代は雌のハスキー犬を必要としているからだ。雪山に静かに座りながら待てる落ち着きと、いざ危機的状況になるとその嗅覚と慈愛の精神を持ち合わせ、群れの力を引き出し、導いていく力強さ。その両方を兼ね備えた雌のハスキー犬たちが、国境や業界を超えたところで、新たな世代を巻き込みながら、思いやりと真実を兼ね備えた未来をスピードをもって作り出そうとしている。

私はもう吠え合い、噛み合う男子の価値観や世界観にはうんざりしている。女子が群れを率いてくれることを願っており、私はそれに従うつもりだ。


※このシリーズの原文(英語)は、Mediumに投稿されています。

The Charm of The Capybara
The value of niceness in the cruelest of times

The Saga of the Husky
How to run together in these runaway times

The Story of The Wild Geese

How to fly in formation in unprecedented times(日本語版はこちら

The Chronicle of The Canary

How to breathe together in these breathless times

The Parable of The Sea Otter

How to swim together in unprecedented times

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